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映画「窓辺にて」純喫茶がハマる大人の恋愛模様 ネタバレ感想

今回ご紹介する映画「窓辺にて」はこれまでの今泉力哉監督作品「愛がなんだ」「街の上で」よりも、ちょっと大人が主人公の恋愛映画。

主演の稲垣吾郎さんが恐ろしい程にはまり役でした(笑)

稲垣吾郎さんにあて書きされた脚本なので当然なのかもしれないのですが、それにしても佇まいや声のトーンまで役所にしっくりくる。いかにも稲垣さんが言いそうなセリフを言うフリーライターの主人公が、妻の浮気を知って揺れ動く心の機微を見事に表現されていて素敵でした。

「えっ?」っと聞き返す間も心地よい自然体の会話劇にシリアスな大人の事情が入り込むバランスが絶妙で、今泉監督最高傑作と声を大にして言いたい!

高校生作家(玉城ティナ)が書いた小説の文章をなぞるように進む物語は、自分が小説を読んでいる時のような感覚もあって、つい自分の感情とも向き合ってしまうそんな作品です。

「窓辺にて」公式サイトより

 

今泉力哉監督作品の魅力>

今泉力哉監督の作品てなんか病みつきになるんですよね。

Twitterでも今一番話題に挙がる事が多い日本の監督さん(筆者の体感によるものです)な気がします。

ちょっと繊細で不器用にしか生きれない登場人物の会話劇を通して、恋愛や人間関係において答えの出ない悩みを描いています。

グダグダ悩んでいるのは自分だけじゃなかったんだなと共感したり、独特の間にクスっと笑ってしまったり「自分ならこんな時どうするかなぁ?」と自然と考えてしまいます。

何気ない日常の中にとても贅沢な瞬間がある事を教えてくれる。そんな魅力を感じます。

youtu.be

 

 

<作品情報>

監督 脚本今泉力哉

キャスト

市川茂巳フリーライターの夫)/稲垣吾郎

市川紗衣(編集者の妻)/中村ゆり

久保留亜(高校生作家)/玉城ティナ

有坂正嗣プロスポーツ選手の夫)/若葉竜也

有坂ゆきの(正嗣の妻/志田未来

荒川円(作家、紗衣の浮気相手)/佐々木詩音

水木優二(久保留亜の彼氏)/倉悠貴

藤沢なつ(正嗣の浮気相手)/穂志もえか

 

 

<あらすじ>

元小説家でフリーライターの市川茂巳は編集者の妻・紗衣と二人暮らし。妻が担当している売れっ子小説家と浮気している事に気付きながらも言えず、誰にも相談出来ずにいた。それは自分のある感情に戸惑っていたから。

とある文学賞の授賞式で高校生作家・久保留亜に出会う。受賞作「ラ・フランス」の内容に惹かれた市川は、この小説にモデルが居るなら会わせてほしい…と告げる。この出会いを通して市川は、自分の感情と向き合い解決策を模索していく。

「窓辺にて」公式サイトより

 

<ネタバレ感想>※ここからはネタバレを含みますので、未鑑賞の方はご注意ください。

「現実世界で『いい』『悪い』と設定されていること。そういう事を疑おうとした作品です。」と今泉監督は語っていました。

不倫や浮気がいけない事だとしても、人を好きになる気持ちに『いい』も『悪い』も無いと思いますし、いけないと分かっていても手放せない感情と向き合う事はとてもつらいものです。

大人とはいえパーフェクトではないので…

市川の妻・紗衣だけでなく、引退を考えているスポーツ選手で茂巳の友人である正嗣も不倫をしています。事実は同じでも抱えている問題は人それぞれ違います。

正嗣は妻から愛されているという甘えや安心感からの浮気で、紗衣の場合は夫から「愛されていないのでは?」という不安から浮気に走ってしまった事は明らかです。

そして、妻の浮気を知ってもショックじゃなかった自分にショックだったと言う茂巳。この夫婦にとっての大きな問題はむしろこちらの方ですよね?

だからと言って不貞行為が許されるというものでは無いのですが、何も知らない第三者がある側面だけを見て雑誌記事やSNSで一方的に叩いたりする世の中の方が恐ろしいと思ってしまいます。



<市川茂巳と久保留亜の出会い>

茂巳はフリーライターになる前は作家だったこともあって、お互いにシンパシーを感じている様子が描かれ、必要な出会いがなにも男女=恋愛だけではない描き方も今泉監督は上手いなぁと感じます。

「生きてると手放すか手に入れるかしか選択ってないのかなって」留亜の言葉は高校生にして悟ってるというか(笑)

だけどこういうシンプルな考え方って大人になる程出来なくなってしまう所があって、茂巳の選択を後押しする一言になったことは間違いありませんし、この究極の選択を迫られた大人たちの物語でしたね。

どんな選択をしたとしても窓辺の暖かな光が静かに肯定してくれる。そんな思いがこのタイトルには込められているようです。

 

茂巳が本に書いたエピソードを留亜が聞いていた公園のシーンで、THE BOOMの「中央線」ていう曲が頭の中で流れた方も多いのでは?

「逃げ出した猫を~探しに出たまま~もう2度と君は~帰って来なかった~」って歌詞なんですよ。

茂巳のエピソードそのままでしょ?(笑)

とってもいい曲なので聴いてみて下さい!

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「窓辺にて」公式サイトより

 

<パフェと10代の恋愛>

パフェを登場させたことに深い意味はないのだそうですが、劇中ではとても気になるアイコンでした。なにしろパフェの意味がパーフェクトだと初めて知りましたから(笑)

だとしたら、劇中でパフェの次にパーフェクトなのは、留亜と優二だと思いました。まだ10代で若い2人の恋愛は、泣いたり笑ったり嫉妬したり…見ているだけで胃もたれする程素直に感情表現が出来る2人の関係は、めんどくさくも羨ましく見えます。

それは注文したことを後悔するほどモリモリの甘味。

相手に遠慮して言いたい事も言えず、相手に期待すれば裏切られるからと冷めた対応しか出来なくなっていた茂巳にとってはこの2人こそがパーフェクト。

ラストで茂巳がパフェのオーダーを2つから1つ(おそらく自分の分のみ)に変更した事に特に大きな意味は無さそうだけど、色々と憶測させる粋なエンディングでした。

 

 

 

 

最後までご覧頂きありがとうございました!