2021年に劇場公開されたエドガー・ライト監督のサイコロジカルホラー「ラスト・ナイト・イン・ソーホー」
もうご覧になられたでしょうか?
現代のロンドンに生きるエロイーズ役トーマシン・マッケンジーと60年代のロンドンに生きるサンディ役アニャ・テイラー=ジョイ。
2人の若者の夢と絶望が妖しく交差する美しさと夜のソーホーに潜む闇。夢と現実がオーバーラップするような感覚に魅了されるタイムリープサイコホラーです。
そして、監督が公開時に公言していた名作オマージュ作品が、かなりガッツリと入って、この物語が構成されていました。
その作品のチョイスといい、使い方といい、やっぱりセンスの塊だな~とエドガー・ライト監督の作品が大好きな私は激しく感動しました!よって…オマージュ作品を深堀解説してみたいと思います!笑
<作品情報>
「ラスト・ナイト・イン・ソーホー」
2021年公開/イギリス/116分/R15+
監督:エドガー・ライト
キャスト
エロイーズ/トーマシン・マッケンジー
サンディ/アニャ・テイラー=ジョイ
ジャック/マット・スミス
ミス・コリンズ/ダイアナ・リグ
ジョン/マイケル・アジャオ
銀髪の男/テレンス・スタンプ
タワーレコードで前売り券購入の特典で貰った私物ポスター。素晴らしいデザインでとても気に入っています!
<あらすじ>
田舎でファッションデザイナーを夢見るエロイーズは、念願だったロンドンのデザイン学校へ入学するが、寮生活には馴染めず、ソーホーの片隅にある古いアパートを借りることに。ある日部屋で眠りにつくとエロイーズは憧れていた60年代のソーホーにタイムリープしていた。そこで歌手を夢見るサンディと出会い、2人の心と体の感覚がシンクロしていく。しかし、サンディの夢は次第にソーホーの闇に飲まれていき、エロイーズはサンディがある男に刺殺される場面を見てしまう。
エロイーズの周りをうろつく、怪しい銀髪の男。この男こそサンディを刺殺した犯人ではないか?と疑いをかけたエロイーズは事件の真相に迫っていく…
オマージュその①「サスペリア」ダリオ・アルジェント監督
<あらすじ>
ドイツにあるバレエ学校に入学する為、ニューヨークからやって来たスージー。しかし、その学校では不可解な失踪事件が起こっていた。その真相を突き止めようとしたスージーの身にも奇怪な出来事が次々襲い掛かる。
<オマージュ解析>
冒頭、学校入学のため新天地へやってきて、クセのある運転手のタクシーに乗り学校へ到着するまでのシークエンスが似ています。両作品とも、少女の期待と不安が入り混じった描写や運転手とのやり取りに、物語の主題をほんのり匂わせての始まりが秀逸です。
そして、強烈な原色の使い方。赤、青、緑…と場面によってくるくる使い分けていた「サスペリア」に対し本作では、ソーホーの夜のいかがわしさを印象付けるようにネオンの赤い光、青い光が印象的で、エロイーズの住むアパートの窓からも入り込むような形で使われていました。
オマージュその②「反撥」ロマン・ポランスキー監督
<あらすじ>
ロンドンのアパートで姉と暮らすキャロル。姉が妻子持ちの男を毎晩のように部屋に連れ込むことから、強い性嫌悪を抱き、男に犯される悪夢を見るようになり精神を病んでいく。キャロルの男性恐怖症は次第に加速し、ついに殺人まで犯してしまう…
<オマージュ解析>
寮で同室になった子が部屋に男性を連れ込み部屋を追われるエロイーズの様子や、タクシー運転手のセクハラまがいの対応に怯えるよう様子から、エロイーズが性嫌悪感を抱いている事が分かります。
寮生に馴染めず孤立していたエロイーズを気にかけ、声をかけていた後のボーイフレンド・ジョンの事も始めは冷たくあしらっていました。
物語の全体の骨格を形作る強いオマージュが「反撥」からは感じられ、キャロル役のカトリーヌ・ドヌーブの姿が「ラスト・ナイト・イン・ソーホー」のもう一人のヒロインのようにオーバーラップしてしまう程でした。
歌手を夢見て芸能界に足を踏み入れたサンディが、男達に搾取されるようになってしまいます。まるで売春婦のように闇落ちしていく様子をタイムリープで見てしまったエロイーズは、顔のない男達の亡霊を見るようになり精神を病んでいきます。
その不気味さや気持ち悪さの表現がオマージュとして生かされています。
※ここからの文章にはネタバレが含まれておりますので、未鑑賞の方はご注意ください!
オマージュその③「赤い影」ニコラス・ローグ監督
<あらすじ>
イギリス人のバクスター夫妻は水難事故で愛娘を失ってしまう。その後仕事でイタリアのベニスを訪れた夫婦は、年老いた姉妹と出会い、盲目で霊感の強い妹の方から「赤いレインコートを着たクリスティンが父親ジョンの身が危ない。」と言っていると告げられ…
<オマージュ解析>
水難事故にあってしまった際に着ていた赤いレインコートの印象が強烈で、娘の死後もその赤い幻影が夫婦につきまとって離れないという、じっとりした怖さのオカルト・サスペンスです。
この物語のラストで父親・ジョンは赤いレインコートを着た子供の姿を見かけて追いかけるのですが、振り向いたその姿は小人の老婆だったという衝撃的なオチでした。
「ラスト・ナイト・イン・ソーホー」ではサンディが着ている白いビニール地のコート(エロイーズも古着店で似たデザインの白いコートを購入して着ていましたね。)が赤いネオンに照らされて、時折赤く染まって見えます。
それがどことなく、ラストの展開を暗示しているように思えました。
それは、サンディが刺殺された側ではなく、ジャックを刺殺していた当事者であったことが明らかになったことと、事件からかなりの時間が経過しており当時名乗っていたサンディという名を葬り、ミス・コリンズと名乗る老婆になっていたことが「赤い影」の結末とダブります。
<ラスト・ナイト・イン・ソーホーの結末>
実は60年代当時、ソーホーを見守る警察官だった銀髪の男が「アレクサンドラが殺した」と謎のメッセージをエロイーズに残し、目の前で車にはねられ死亡します。
そしてその後、エロイーズの大家であるミス・コリンズの部屋で彼女宛ての封書に”アレクサンドラ”と書かれた宛名を見たことで、疑いが確信に変わるというラストでした。
オマージュされた名作の配信があるのは(2023年8月現在)U-NEXTだけです!
是非「ラスト・ナイト・イン・ソーホー」と合わせてご覧ください!
映画の世界がぐっと広がりますよ。
最後までご覧頂きありがとうございました!