スティーブン・スピルバーグ監督の作品と言えば?「E.T」「シンドラーのリスト」「インディー・ジョーンズ」近年だと「レディプレイヤー1」など、好きな作品や思い入れのある作品が皆さんにもあるのではないでしょうか?
本作「フェイブルマンズ」は輝かしい経歴を持つ、スピルバーグ監督の自伝映画という事で、監督としての秘話や苦悩が描かれるのでは?と思われた方も多いのではないでしょうか。
しかし、スピルバーグ監督の7歳~18歳までの監督になる以前を描いた作品ということで、正直ちょっぴり残念に思いました。
監督になってからの話の方が面白そうだな?と(笑)
観た感想としては、本当に極めて個人的な、主に家族の話ばかりなのに面白かったんです!
これはもう「映画うま男」と呼ばれるスピルバーグ監督の成せる業だと感激した作品でした!
<作品情報>
「フェイブルマンズ」
2022年/アメリカ/151分/PG12
監督 脚本:スティーブン・スピルバーグ
キャスト
ミッツィ・フェイブルマン/ミシェル・ウィリアムズ
バート・フェイブルマン/ポール・ダノ
ベニー/セス・ローゲン
サミー・フェイブルマン/ガブリエル・ラベル
ボリス伯父さん/ジャド・ハーシュ
<あらすじ>
1952年、アメリカ・ニュージャージー州に暮らすフェイブルマン一家。長男サミーは両親に連れられ初めての映画鑑賞。セシル・B・デミル監督作「地上最大のショウ」を観たサミー少年の目は釘付け。すっかり映画の世界に夢中になってしまいます。
映画で観た、列車と車の衝突シーンを何度もおもちゃで再現していたサミー。ある日、「撮影しておけば何度も観られるわよ。」とピアニストの母親ミッツィから8㎜カメラをプレゼントされる。それ以来、家族の様子を記録したり、妹たちとホラー映画のまね事を撮ったりとカメラが手放せない程夢中になります。
1957年、エンジニアの父親バートの転職に伴い一家はアリゾナ州へ引っ越します。仕事仲間でもある父の親友ベニーも一緒でした。
10代になってボーイスカウトに入ったサミーは、仲間を映画をつくって上映します。評価してはくれるものの、映画は趣味と言う父親と、映画を仕事にする事に夢を抱き始めたサミーは衝突するように…
※感想はネタバレを含みますので、未鑑賞の方はご注意下さい!
<幼少期にはもうすでに決まっていた?>
映画と出会ってしまった少年の初期衝動の描き方が素晴らしかったです。
真っ白なキャンバスを暴走列車が突き破って走り抜けるような感覚を受け取りました。
まだ、自宅でビデオや配信で繰り返し観ることが出来なかった時代背景も大きいとは思いますが、すでに意識が作る側なんですよね。
そこで8㎜カメラを買い与えたピアニストで芸術肌の母親無くしては、スピルバーグ監督の誕生は無かったかもしれませんし、映画の歴史は変わっていた事でしょう。
そして緻密に計算されたスピルバーグの作品からは、論理的で現実志向の優秀なエンジニアだった父親からの影響も感じられます。
ちょっと嫉妬してしまう程、羨ましい環境と遺伝子が備わっていますよね!
<大叔父の言葉>
ある日突然フェイブルマン家を訪ねてきた大叔父ボリス(ジャド・ハーシュ)。見た目はいかにも偏屈そうなお爺さんですが、言葉に説得力があり、圧倒的な存在感が素晴らしかったです!
ボリス伯父さんは、ハリウッドに関わる仕事をしてきたようで、業界の光と闇を色々見てきたのでしょう。
「お前は映画を作る、そして苦しむ。心を引き裂き、孤独になる…」
神のお告げか警告か?
その後サミーはキャンプで撮ったフィルムを編集していると、そこに映し出されていたベニーと母親の姿を見て、2人が愛し合っていることに気付いてしまいます。
叔父さんのお告げ通り、心は引き裂かれ、誰にも言えず孤独になってしまったサミーが痛々しかったです。
カメラは時に、見たくもない真実を捉え映して出してしまうのです。
<何故、母親役にミシェル・ウィリアムズを選んだのか?>
ピアニストで芸術家肌の母親ミッツィを演じたミシェル・ウィリアムズ。
子供達の感性を伸ばす、寛容さが魅力的な女性を好演していました。しかし、物語が進むに連れ、夫婦共通の友人であったはずのベニー(セス・ローゲン)に気持ちが傾いている様子が色濃くなってくると、私にはある作品が脳裏によぎってきました。
それは2012年サラ・ポーリー監督作「テイク・ディス・ワルツ」です。
この作品でミシェル・ウィリアムズとセス・ローゲンは夫婦役で、ミシェル・ウィリアムズが他の男性を好きになってしまい苦悩する役なのですが、本作と同じ種類の涙、泣きの芝居をしています。
スピルバーグ監督は「テイク・ディス・ワルツ」をもしやご覧になっていて、この2人とご両親の姿が重なって見えたのではないかと勘ぐってしまいました。
2作品、合わせて観ても面白いです!
<スピルバーグ青春物語>
高校生になるとユダヤ人だという事で、ユダヤのパンをロッカーに入れられて、ベーグルマンとからかわれたりしていました。
人種や宗教、文化の違いで考え方の違う同級生とも、なんとな~く上手くやっていくのにも、カメラが一役買っていたのかな?とビーチでの撮影風景からは感じました。
めちゃくちゃチャーミングなキリスト教徒の彼女も出来て、宗教の違いによるサミーの戸惑いもコミカルに描かれていましたね!
そのビーチでの様子を学校で上映した日の、ローガン(スクールカースト上位のイケてる男子)のリアクションは自分が思っていたものとは真逆だったので、驚きました。
イケてる自分に酔いしれるタイプだと思っていたので(笑)
上映後にはチョッカイ出してた女の子が自ら寄ってきてキス。ローガンご満悦かと思いきや、泣いちゃいました。
まるで、ヒーローのように映し出される自分の姿がマヌケに見えてしまったようでした。
ここでは真実を映しているつもりが、虚構を生んでしまったというのが皮肉です。
でも「5分だけでも友達になりたかった。」というサミーの叫びがローガンに届いたようで一件落着でした(笑)
<リンチ登場!>
よれよれの薄汚れた服を着た老人。一瞬誰か分からなかったのですが、やけにハリのある声で気付きました…デヴィッド・リンチ監督だと(笑)
巨匠ジョン・フォード監督に成りきるために、2週間前から同じ衣装で眼帯もつけて役作りに徹していたとか…通りでボロボロなはずだ(笑)
ずーっと個人的な話だったのに、最後に映画ネタをぶち込んでくるあたりは上手いな(ズルいな)と思いました。
水平線が上にあるか?下にあるか?それとも真ん中にある退屈な映画なのか?
今度から映画を観るときは気になってチェックしてしまいそうです。
特に、スピルバーグ監督の作品は要チェックですね(笑)
<終わりに>
スピルバーグ監督が夢を意識し始めた矢先のトラウマとも言えるような出来事。自分の思惑とは関係なしに、ときに真実を、ときに虚構を映し出す映画の怖さを経験し、それらを通し成長していく過程で”映画を撮る覚悟”を固めるまでの物語だと思いました。
「この自伝映画を撮る事なしに、自身のキャリアを終えることは考えられない。」と言う程、監督にとっての重要な作品なのですが、”自伝”だというを意識せずとも、上質なヒューマンドラマとして楽しめる作品でもありました。
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最後までご覧頂きありがとうございました!