待望のA24ホラー映画3部作 2作目「Pearl パール」
1作目「X エックス」にて衝撃的なキャラクターで登場した老女殺人鬼パールの若かりし頃を描いたいわゆる前日譚。
前日譚映画、エピソード0…私はそれを作品の箸休め的なものだと考えている。これまで、数々の前日譚映画を観てきたがどれも物語の補足に過ぎないので、余り記憶に残っていなかったりもする。
なので本作も過度に期待はしていませんでした。(凄いネガティブなスタート…笑)
観てみた感想としては、それなりに楽しめましたし「X エックス」で疑問に思っていた部分の答えとしても「なるほど!」と納得できるものでした。
前評判通りミア・ゴスの怪演も素晴らしかったです!
ただ「X」のように次々と天に召されるような王道スラッシャーではないので爽快感は無くエンタメ度も低いので、夏に観たいタイプのホラー映画ではなかったかな?という印象です。
そして思っていた以上に1939年「オズの魔法使」オマージュでしたし、その主演女優ジュディ・ガーランドの悲劇的な人生をパールに重ね合わせてしまうような物語でした。
<作品情報>
「Pearl パール」
2023年7月7日公開/アメリカ/102分/R15+
監督:タイ・ウェスト
脚本:タイ・ウェスト/ミア・ゴス
キャラクター/キャスト
パール/ミア・ゴス
映写技師/デヴィッド・コレンスウェット
パールの母ルース/タンディ・ライト
パールの父/サンダー・ランド
本作では脚本まで手掛けている。このホラー3部作、どこを切り取ってもミア・ゴスだらけだ…(笑)
<あらすじ>
1918年、テキサス。
パールはドイツ人の厳格な母親と病気で車イスの父親と、小さな農場で家畜の世話をしながら細々と生活していた。若くして結婚したパールだが夫のハワードは戦争へ出征していた。そんな生活に次第に鬱屈していく中、スクリーンで歌い踊る華やかなスターへの憧れを強めていく。
しかし、パールの母親は父親の面倒を看ることを強いて、農場を出る事を決して許さなかった。夢を見る事さえ出来ない抑圧が、次第に狂気となり暴発する。
「オズの魔法使」オマージュを分析!
1.冒頭の描き方
扉を開け物語が始まる「パール」の冒頭は「オズの魔法使い」でセピア色の現実世界から、主人公の少女ドロシーがドアを開くとカラー映像に切り替わり、夢の世界に入っていくという場面を連想させます。
2.かかし
パールが農場で見つけたカカシとダンスを踊るシーン。ダンスに留まらず異性に見立てたカカシにまたがってしまう奇行には思わず笑ってしまいました(笑)
3.炎
暖炉の火がスカートに燃え移ってしまった母親に、パールが熱々スープをかけて消火しようとするシーン。
「オズの魔法使」で西の魔女がカカシに点火した火を消そうとして、ドロシーが水をかけるシーンに似ています。カカシにかけた水が西の魔女にもかかってしまい、西の魔女が溶けてしまうという結末でした。
4.ドロシー役女優ジュディ・ガーランドの人生
表もあれば裏もあるのがスターの宿命です。当時、痩せ薬とされていた覚醒剤を与えられ馬車馬のように働かされ、そのせいで夜眠れず睡眠薬を飲むという生活に心身のバランスを崩してしまいます。
ジュディの父親が実はゲイである事を知った母親は、ジュディをスターにする事に生んだ意味を見出そうとしていたのではないか?と言われています。
ジュディは父親のことは好きだったみたいで、そこもパールと同じですね。
5.毒親の連鎖
自分の栄養を吸収して次第に大きくなる胎児を愛おしく思うのか。恐怖だと思うのか。
パールもジュディ・ガーランドも中絶を望みました。子を持つ恐怖は毒親に育てられた女性にしか分からない苦悩だと思います。
6.セリフ
「心の美しさは愛することではなく愛されることで分かる」
心を欲しがったブリキにオズの魔法使いがかけた言葉です。
体の不自由な父親に「お父さんは愛されているわ。」とパールが言ったとき、このセリフが浮かびました。
母に愛される事を熱望し、叶わなかったパールとジュディ。どうしても、この2人が重なって見えてしまうのでした。
7.「欲しがることはやめた。持ってるものを大切にするの。」
映写技師との恋に破れ、オーディションにも落ちてしまったパールのセリフ。
ウジ虫が湧く食卓を囲むミイラ化した両親、そこへ無事戦場から帰ってきた夫ハワードと引きつった笑顔のパール…確かに持っているもの(家族)を大切する様子がラストで描かれていましたね。
凄いブラックユーモアあふれる展開でした(笑)
「オズの魔法使」では家出して夢の世界に迷い込んだドロシーが、大切なものが実は身近にあることに気付き、一刻も早く家に帰りたいと願い、農場の仲間達と再会するシーン。
その時のセリフが…「私の部屋にみんなが居る、もう二度と離れたりしない!」
パールもテキサスを離れることなく、テキサスに骨をうずめました(笑)
※筆者独自の解釈で、公式な発表を一切参考にしておりません事をご了承ください。
「オズの魔法使」は歴史にその名を残す名作です!ぜひ一度観てみて下さい!
「Pearlパール」鑑賞後の「オズ」はまた格別だと思いますよ(笑)
配信はU‐NEXTだけです!
パールがブロンドを嫌う理由
「X エックス」鑑賞後、次回作パールで語られるのでは?と個人的に一番楽しみにしていた所です(笑)
義理の妹と参加したダンスオーディションで審査員に「若いブロンドのXファクターを探している」と言われパールは夢破れてしまいます。
UKの人気オーディション番組「Xファクター」を連想させますよね(笑)
そして、求められていた若いブロンドが皮肉なことに義妹のミッツィーでした。
いい娘だったし、無垢な笑顔がめっちゃかわいい。
合格した事をなかなか言い出せないミッツィーが不憫でなりませんでした(笑)
<まとめ>
本作は「オズの魔法使」サイコバージョンとも言えるのではないかと思えてきました。
ポップで可愛らしいテクニカラーの作品と言うだけでなく、シンプルなストーリーの前日譚映画ながら伝えるべきテーマがしっかりある作品でした!
ミア・ゴスちゃんもかわいいだけじゃなく、パールが秘めていた狂気を全身全霊で表現していて、凄い役者さんだと思いました。
いつもそうなのですが、とりわけ本作は色々書いているうちに「あっ、これ面白いかも⁈」と評価が上がってしまいましたね(笑)
「X」の感想もどうぞご覧ください!
最後までご覧頂きありがとうございました!